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法律面で見る勤務医の退職トラブル【荒木弁護士解説】

~退職に関する法律とよくあるトラブルの対処法~

法律面で見る勤務医の退職トラブル【荒木弁護士解説】

1.はじめに

勤務医の転職時期は、3月末退職4月入職に集中するのが特徴だと思います。医師の皆様の中には、程度の差はあれど退職時に医療機関と揉めたり不本意な思いをしたりした経験がある方も少なくないのではないでしょうか。また、医局を退局するのに大変な思いをしたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、知っておくといざというときに役立つ退職に関する法律上のルール、退職時によく起きるトラブル、そして、アンケートで寄せられた実際のトラブルをご紹介したいと思います。

2.退職に関する法律上のルール

期間の定めの無い雇用契約の場合、2週間前までに医療機関に申し出ることでいつでも退職できます。

(1)勤務医の都合で退職する場合

ア 期間の定めが無い場合

期間の定めの無い雇用契約の場合、勤務医は、医療機関に対していつでも退職を申し出ることができ、申し入れの日から2週間経過後に雇用契約が終了します。(民法627条1項)

期間の定めの無い雇用契約とは、いわゆる無期雇用のことで、雇用契約書の雇用契約の期間の箇所に「期間の定め無し」と書かれることが多いです。一般的には、正規職員がこれに当たります。

無期雇用の場合、法律上のルールでは2週間前までに申し出ることにより勤務医の側からいつでも退職できることを知っておいてください。

イ 期間の定めがある場合

期間の定めのある雇用契約の場合、勤務医は、期間満了まで勤務しなければならないのが原則です。

しかしながら、期間の定めがある雇用契約の場合でも「やむを得ない事由」がある場合には、期間の途中でも退職することが可能です。(民法627条2項)

「やむを得ない事由」とは、例えば、労働者が病気や事故によって長期間就労ができない場合や使用者の賃金未払いや労基法違反で就労が困難な場合を指すと解されています。

なお、期間の定めがある雇用契約とは、いわゆる有期雇用のことで、雇用契約書の雇用契約の期間の箇所に、例えば令和6年4月1日から令和7年3月31日など具体的な期間が記載されています。一般的には、非正規職員やアルバイト、非常勤職員が有期雇用に該当することが多いです。

ご自身の雇用契約が無期雇用か有期雇用のいずれに該当するかは、雇用契約書や労働条件通知書などで確認してください。

ウ 就業規則に退職の予告期間が定められている場合

就業規則に退職の申し出時期が定められていても法律上のルールが優先します。

無期雇用の場合、最短で2週間で退職できることを説明しましたが、就業規則に退職する場合は1ヶ月前までに申し出ることや、医師の場合は3ヶ月、長い場合は6ヶ月前までに申し出ることなど医療機関が法律上の予告期間よりも長い予告期間を独自に定めていることが多いです。

この場合、基本的には就業規則よりも法律上の規定が優先されると解されています。

自己都合退職について30日前までに所属長への文書による退職の申し出を就業規則に定めていた事案で、期間の定めの無い雇用契約の労働者からの退職の申し出は2週間の期間を要するのみであり、これに反する就業規則の効力には疑義があると判示した裁判例があります。(広告代理店A社元従業員事件・福岡高判平成28年10月14日)

もっとも、法律上は最短2週間で退職が可能であっても、医師から急に2週間前に退職を申し出られると医療機関も困ることは容易に想像がつくと思います。特に医師の後任の確保は困難な場合が多く、強い引き留めに遭う可能性もあります。

そのため、円満な退職のためには、できるだけ早めに退職を申し出て後任探しや引継ぎの期間が十分に確保できるように配慮することをお勧めします。

エ 明示された労働条件と実態が相違していたとき

使用者である医療機関は、勤務医に対し雇入れ時に労働条件を明示する義務がある(労基法15条1項)ことは、第2回の記事「医師のための雇用契約書のチェックポイント」で説明したとおりです。

しかしながら、明示された労働条件と事実が相違していたときは、労働者は即時に雇用契約を解除することができます。(労基法15条2項)

先述したとおり、退職する場合、無期雇用の場合は2週間の予告期間が、有期雇用の場合はやむを得ない事由が必要ですが、明示された労働条件と実態が異なる場合は、即時に退職することが可能です。

そして、この労基法15条2項の規定により即時解約する場合、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならないということも規定されています。(労基法15条3項)

(2)解雇・退職勧奨にあったとき

ア 解雇

解雇とは、使用者が一方的に雇用契約を終了させることをいいます。解雇は、更に懲戒解雇、普通解雇、整理解雇に分けられますが、ここでは、普通解雇について簡潔に解説します。

使用者が行う一方的な解約である解雇については、労働者とその家族に重大な影響を及ぼすことを考慮して、判例により大きな制約が加えられ、その後、条文により明文化されました。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります。(労働契約法16条)

また、期間の定めのある労働契約については、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができません。(労働契約法17条1項)

病院職員に対して平手で両頬を殴打、丸めた資料で頭部をたたく等の暴力行為を理由とする契約期間中の普通解雇が無効とされた裁判例があります。(大阪地裁平成30年9月20日判決)

このように、使用者からの労働契約の一方的解消である解雇については、余程の事情が無い限り認められません。

イ 退職勧奨

先述したように、使用者にとって解雇が有効となるハードルが高いため、退職してほしい労働者がいる場合、退職を促す行為である退職勧奨が行われることが多いです。

医療機関は、勤務医に対して退職勧奨を原則として自由に行うことができる一方で、勤務医も退職に応じる義務はありません。退職する意思が無い場合には、退職勧奨が繰り返されることを防止するため、その旨を明確に医療機関に伝えることをお勧めします。

他方で、条件次第では退職しても良いと考えている場合は医療機関と退職の条件交渉をし、条件がまとまった段階で書面にして取り交わすことをお勧めします。先に、退職願や退職届等の退職に関する書類のみサインすることはお勧めしません。

以上が一般的な退職勧奨に関する説明になります。個別のケースについては、必要に応じて専門家等にご相談下さい。

3. 退職時のトラブル

(1)退職に伴うよくあるトラブル

①有給休暇の消化ができない

忙しい職場の場合は、特に普段中々有給休暇が取得できないため、未消化の有給休暇が30日以上残っているケースも少なくないと思います。このような場合、せめて退職時には有給休暇を消化したいと考える医師も少なくないと思います。

退職時の有給消化ですが、労働者が退職日までの全日数について一括時季指定して年次有給休暇を取得した場合には、他の時季に有給休暇を付与する可能性が無いので、使用者は時季変更権を行使しえないと解されています。(菅野和夫「労働法」〔第12版〕566頁)

そのため、退職時の有給消化は法律上は可能です。また、未消化の有給休暇の買取りについては、使用者側に買取義務はありませんが、結果として未消化となった有給休暇を使用者と労働者の合意により使用者が買い取ることは可能です。

つまり、勤務医の立場に立てば、退職時の有給消化は可能ですし、結果として残った有給休暇については医療機関が買取に合意すれば買い取って貰うことも可能です。

もっとも、勤務医の退職時期が3月末に集中する関係上、3月に有給休暇の取得が重なると病院運営への影響も少なくありません。トラブルを予防・軽減するためには、通常時になるべく有給休暇を取得しておくようにし、早めに医療機関と有給休暇の取得について調整しておくことをお勧めします。

②退職を阻止される

医師の場合、退職をなかなか認めて貰えない、強い引き留めに遭うというケースをよく聞きます。退職について曖昧な態度の場合、医療機関側に強く引き留めれば退職を阻止できるという期待を抱かせてしまい更に強い引き留めに遭ってしまう可能性があります。退職の意思が固い場合、毅然とした態度で退職の意思が固く、病院側の説得により翻意することは無いことを示しましょう。

そして、期間の定めが無い雇用契約の場合は、退職届を提出すれば、法律上2週間で退職できることを念頭において置いてください。

③嫌がらせを受ける

残念ながら、退職することが決まったら嫌がらせを受けたということも聞きます。このような嫌がらせに対しては、毅然とした態度で臨むことが望ましいです。可能であれば嫌がらせを受けた証拠を残しておくと、後々揉めた場合の証拠になります。

(2)アンケートで寄せられたトラブル

最後に、先日行った以下の退職時のトラブルに関するアンケートの結果をご紹介したいと思います。公開のSNSで行ったアンケートですので参考程度に留めてください。
勤務医の退職トラブル

①有給消化を拒否、中々認めて貰えなかった

退職時の有給消化を拒否された、中々認めて貰えなかったという回答は約半数の方から頂きました。

有給消化が認められず3月末までの勤務を要請される一方で、病院の寮は先に退寮するように求められたという回答もありました。解決方法については、結局解決しなかったという回答も半数近く寄せられました。

他方で有給消化できたという方の中には、教授に人手が足りないので有給消化不可と言われたが、どうなってもいいと思い押し切ったという方もいました。

他には、上司に有給消化を拒否されたが、人事に相談し、勧誘を頑張ることを条件に交渉して有給休暇を獲得したという回答も頂きました。

また、弁護士に有給消化が法的に問題無いことを確認して強行突破して有給消化したという方もいました。

②退職を中々認めて貰えなかった

中々退職させて貰えなかったという回答も多く頂きました。退職を申し出てから退職するまでに実際に年単位の期間を要したという回答も複数頂きました。

退職について相談先が無く抱え込んだという回答も寄せられました。また、大学病院を退職する条件として退職後も週1回の勤務を要請されたという回答もありました。

③退職を申し出ると嫌がらせを受けた

退職を申し出ると嫌がらせを受けたという回答も複数頂きました。専門医取得に必要な書類にサインを拒否されたという回答が複数寄せられました。他にも、3月末の土日まで勤務を求められ、断ると嫌味を言われたという回答も寄せられました。

④退職勧奨にあった、解雇された

退職勧奨に遭い、退職させられたという回答も複数寄せられました。また、退職勧奨に遭い、拒否すると解雇されたが、法的措置をとり最終的に十分な金銭を得たという回答もありました。

アンケート結果を拝見すると、有給消化については諦めたという方もいる一方で、何とか有給消化を勝ち取ったという方もいました。他には、特に嫌がらせを受けたり、退職を中々認めて貰えないときに気軽に相談できる先がほしいという回答も複数寄せられました。

自分に非は無くてもトラブルに巻き込まれたり、法律上認められるはずのことが阻まれるということは誰にでも起こり得ます。そのときに、少しでも冷静に対処するためにも、退職に関する基本的な法律上のルールについて知っておいて損はないと思います。

<参考資料>

〇法令

  • 民法627条
  • 労働基準法15条
  • 労働契約法16条、17条

〇判例

  • 広告代理店A社元従業員事件(福岡高裁平成28年10月14日)
  • 医療法人錦秀会事件(大阪地裁平成30年9月20日)

〇その他参考資料

弁護士 荒木 優子
https://araki-law.com/
第二東京弁護士会所属。勤務医の労務問題やクリニック運営に関する法律相談などが専門。医師の労働問題に関してSNSやメディアで日常的に発信し、X(旧Twitter)でのフォロワー数は1.2万人以上。

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